十年一昔(型技術・パンタグラフ 2007年)

 

十年一昔

九州工業大学 楢原弘之

 

パスポートの有効期限を切らしてしまった。更新をうっかり忘れてしまうと、戸籍抄本から取り寄せなければならない。しばらくして送られてきたのは、戸籍抄本ではなくて個人事項証明書だった。多くの自治体で戸籍証明を電算化してきているらしく、私の本籍地でも今年から導入されたようであった。

調べてみると、これまでの戸籍謄本を全部事項証明書、戸籍抄本を個人事項証明書として発行し、また従来の紙の戸籍はイメージ化され、平成改製原戸籍謄本として区別されるらしい。外字扱いの漢字を苗字に持つ人はどうなるのだろう?ちょっと気になった。

果たしてそれについても説明があった。なんと氏名の文字が「正字」化されるとある。つまり、これまで紙の戸籍に漢和辞典で載っていない文字で氏や名が記載されていた人は、常用辞典、人名用漢字、漢和辞典に載っている文字で記載されることになるらしい。ご先祖様から引き継いだ名字を、お上の都合で勝手に変えてよいものか。そうは言っても利点もある。事務処理がスピーディになり、複写機による偽造を防止するための特殊な改ざん防止用紙が使えるなどである。手書きから電算化への変更は、何かを取り、何かを捨てる可能性があることを常に認識する必要があるかもしれない。

次に必要なものが写真である。学生達が良く利用する証明写真機を利用する。好奇心も手伝って、いろんなモードを試してみる。さあ、これで全部確認した。印刷ボタンを押す。約30秒待てば、写真が出てくるはず…だったが、モニター画面が白くなり、「エラーが発生しました」の文字。

あわてて連絡先に電話。「中のパソコンが故障したようですので返金します」と担当者の返事。5分で終わるはずの写真撮影にかなり時間を取られてしまった。潜在的な品質損失を抱えた機械だったとは思ってもみなかった。

ソフトウェアの分野では、日々増大するプログラム規模に対して、プログラムの不具合(バグ)も増大し、開発期間の遅れにつながっているらしい。バグ作り込みの一因に、十分な概念・詳細設計も行なわずにコーディング作業に取り掛かってしまう傾向が問題とされているようだ。

振り返って製造分野でも電算化(3D‐CAD、CAD/CAM統合)の陰で、いきなり手書きの行為まで無くしてしまって、自分は最新のツールを使っているからといって自己満足し、逆に設計活動を阻害してしまっていることは無いだろうか?

さて出来上がったパスポートは色々な偽造対策が施され、ICチップ入りのページが加わり、以前よりも1.5倍厚く、ポケットに入れて曲げられない。偽造防止のためとはいえ、技術が不便を強いているのは残念なことである。

 

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